内部監査について
筆者は仕事柄、クライアントの監査報告書をレビュすることが多い。しかしながら、どの監査報告書を見ても監査の目的がまったく理解されていないことに驚愕する。
内部監査の目的は、以下の2つである。
- 自社のQMSが規制要件に適合していることを確認する。
- QMSの有効性を確認する。
それ以外はない。
FDAのQSR(21 CFR Part 820)には、以下の記載がある。
§820.22 品質監査
各製造業者は、品質監査の手順を確立し、そのような監査を次の目的で行うこと。すなわち品質システムが確立された品質システム要求事項に適合されていることを確実にするため、及び品質システムの有効性を判定するためである。
品質監査は、監査される事項に直接の責任を持たない者によって実施されること。不具合事項の再監査を含む是正処置を必要な場合、講じること。
一方で、PIC/S GMPには以下の要件が記載されている。
第9章 自己点検(Self Inspection)
原則
自己点検は、GMP原則の実施及び適合状況をモニターし、 また必要な是正処置を提案するために実行されること。
いずれにもミスを発見することとは記載されていない。
例えば、内部監査報告書において、転記ミスなどの間違いをしているケースがあるが、これは不適切である。監査員が指摘しなければならないのは、転記ミスを見逃している体制、手順の不備である。また品質保証(QA)が適切に機能していないことに も言及するべきである。
監査は第三者的に確認する作業であり品質保証に必須項目である。監査は欠陥をみつけるのが仕事ではない。欠陥がないことを確認するのが本来の業務である。ただし、万が一欠陥がみつかればそれを指摘する。
また、よこしまな考えに対しては抑止力の発現と万が一の場合は毅然とした態度で臨むこと。
内部監査は、第一者監査と呼ばれる。ここで重要なことは、自社のQMSの規制要件への適合性とQMSの有効性を確認するということである。また、監査員は社内コンサルタントでもある。自らの問題点、課題点、リスクを発見したならば、改善提案を出さな ければならない。
第二者監査は、顧客から監査を受ける場合、または供給者を監査する場合を言う。ここでもある程度のコンサルテーションは許容される。
第三者監査は、規制当局の査察や認証期間の調査が相当する。第三者監査においても、QMSの適合性と有効性の判定を実施する。査察官は必ずしも各分野の専門家とは限らない。しかしながら、品質システムを監査する技能は持ち合わせている。
ちなみに第三者監査では、コンサルテーションは禁じられている。
監査手法に関する国際規格として、ISO-19011がある。ISO-19011は、ISO-9001とISO-14000の監査部分を融合した規格である。2002年に発行され、2011年に9年ぶりに改定された。
ISO19011:2011では、監査員として望ましい行動を13項目あげている。
- 倫理的である。すなわち、公正である、信用できる、誠実である、正直である、そして分別がある。
- 心が広い。すなわち、別の考え方または視点を進んで考慮する。
- 外交的である。すなわち、目的を達成するように人と上手に接する。
- 観察力がある。すなわち、物理的な周囲の状況及び活動を積極的に観察する。
- 知覚が鋭い。すなわち、状況を認知し、理解できる。
- 適応性がある。すなわち、異なる状況に容易に合わせることができる。
- 粘り強い。すなわち、根気があり、目的の達成に集中する。
- 決断力がある。すなわち、論理的な理由付け及び分析に基づいて、時宜を得た結論に到達することができる。
- 自立的である。すなわち、他人と効果的なやりとりをしながらも独立して行動し、役割を果たすことができる。
- 不屈の精神をもって行動する。すなわち、その行動が、ときには受け入れられず、意見の相違または対立をもたらすことがあっても、進んで責任をもち、倫理的に行動することができる。
- 改善に対して前向きである。すなわち、進んで状況から学び、よりよい監査結果のために努力する。
- 文化に対して敏感である。すなわち、被監査者の文化を観察し、尊重する。
協働的である。すなわち、監査チームメンバー及び被監査者の要員を含む他人と共に効果的に活動する。など。
これらの行動をすべて完璧に発揮できる人はいない。不十分な行動を改善するように努めていくことが大切である。