「ハーボニー」偽造品流通事件
厚生労働省は1月17日、奈良県のある薬局チェーンで、ギリアド・サイエンシズのC型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」の偽造品が見つかったと発表した。
医療機関で処方され、薬局で調剤された医薬品が偽物だったというのは前代未聞である。
日本では、国民皆保険制度や医薬品卸売業者を核とする強固な流通網が偽造品の流通を防いでいると思われてきた。日本の医薬品市場を守ってきた網があっけなく破られたことの衝撃は大きく、波紋が広がっている。
偽造薬の問題は世界的に広がっており、2010年のWHOのレポートによると、偽造薬の流通量は世界で750億ドル(約8兆6000億円)にも達すると推計されている。
「ハーボニー」は1錠約5万5000円、1ボトル約153万4000円と非常に高額な薬剤であり偽造するには格好の標的である。
そもそも偽造医薬品は偽時計や偽ブランドものバックに比べて製造原価が非常に安く、犯罪集団の利益額が大きい。
世界のブラックマーケットのトップが偽造医薬品でありなんと20%を占めるとされる。
高額な薬剤は今後も続々と発売されると予想されている。
JGSP(Japanese Good Supplying Practice)
日本では現在、医薬品の製造から出荷までは「GMP(Good Manufacturing Practice)」が省令として定められているが、出荷後の流通を管理する制度的な規制はない。
現状では、日本医薬品卸売連合会(卸連)の自主基準「JGSP」で適正流通の管理を行っている。
「JGSP」による流通管理は、卸連に加盟していない現金問屋には及ばず、それが今回、偽造品の流通を招いた面もある。
PIC/S加盟時からGDPの採用に関する議論はあったにもかかわらず、最近になって議論が本格化してきた。
これまでのGDPにおける議論では『日本では偽造品の混入はまず起こらないから、GDPの三要件である「温湿度管理等の品質の確保」に重きを置くべきだ』ということがもっぱら言われていた。
今般の事件を受けて『偽造品対策』が急に規制の最優先事項に上ってきたのである。
GDPとは
GDPはGood Distribution Practiceの略で「実践流通規範」と訳される。
現状のGMPでは、出荷判定後、医薬品に対する品質確認が実施されていない。製薬企業が製造したままの品質で患者に届けるのがその目的である。
輸送・保管過程における医薬品の品質を確保することを目的とした基準(適正な物流に関する基準)である。
物流過程には様々な問題があり、医薬品の品質を維持する為には、適正に管理することが重要になってきている。
医薬品によっては温度管理範囲を逸脱すると変質により使用不可になるものがある。 (温度感受性、厳格な温度管理)
特に夏季配送時における積み下ろし時の温度上昇の影響などが懸念される。また日本からオーストラリアに医薬品を輸出する場合などのように真夏から真冬に季節が反転することもある。この場合温度変化は40℃を超えることがある。
それらCold Chainに加えて今般の偽造医薬品問題が発生した。
日本においてもGDPを早急に奨励化しなければならない所以である。
しかしながら課題もあり、末端の配送業務までの管理は困難なのが現状である。
またGDP導入による流通管理の厳格化は、医薬品卸売業者にとって大きな負担となる可能性もある。
国際標準を満たしながら、どう日本に合った形で導入していくのか、課題も少なくない。